今回の三中全会では、請け負った土地の使用権の譲渡を承認することで、農業生産の集約化や機械化を促進すると同時に、離農農家の収入を改善することが狙いだ。
一方、農村部や都市部を問わず、個人消費を底上げし、中国の消費率を引き上げるため、雇用を増やすことは長期的な課題である。
ニ○○七年末時点、中国の就業者数は七・七億人に達したが、一九九八年から二○○七年までの一○年間、中国の実質成長率が年平均九・五%増に達したのに対し、就業者数は年平均一%の微増にとどまり、雇用なき高成長となった。
もし中国の雇用弾性値が成功したといわれる途上国並みの○・五であれば、中国の雇用者数は二○○○年時点で既に一二・七億人に達し、雇用問題はとっくに解決していたはずだ。
中国の雇用弾性値が低い理由は、経済成長率を高めるための競争に熱中してきた地方政府や国有企業が、資本集約型産業に頼る傾向が強いためだ。
というのは、経済成長率を押し上げるには投資の効果が抜群だ。
しかし、高い投資率の非効率性および持続可能性はともかく、雇用の拡大に繋がらないのは、人口大国の中国にとって必ずしも得策ではない。
中国の産業別就業者数のただし、土地使用権の譲渡をめぐって、実現できるかどうかは、依然不透明である。
「世界の生産工場」から吐き出された余剰労働力が再び農村部に戻っているなか、土地使用権を譲渡してしまえば、彼らが生計を立てる最後の手段を失い、社会不安が一気に増幅しかねないというのが反対派の意見だ。
金融危機の最中、政府が土地改革に慎重になるのはやむをえないが、長期的には、農業の近代化を推進するには土地の集約化が欠かせない。
また、農村部の余剰労働力を吸収するため、インフラ整備やサービス業の発展を通じて農村部の都市化を推進することは避けて通れない。
伸び率だが、高い投資率を反映し、ここ数年、第二次産業の雇用者数が高く伸びているが、第一次産業が減少したほか、第三次産業の伸び率がむしろ低下しているため、就業者数は低成長にとどまっている。
金融危機が中国に雇用危機をもたらしたことは、製造業に頼る中国に改めて警鐘を鳴らした。
中国が最低八%以上の成長率を維持しなければ、雇用問題が悪化し、社会秩序が混乱すると指摘されているが、投資依存型の成長戦略に頼る限り、中国の雇用問題は大きく改善するとは考えられない。
中国のGDPに占めるサービス産業の比率は四割前後にとどまり、先進国だけでなくインドなどの発展途上国に比べても特段低い。
中国に必要なのは、豊富な労働資源を生かす内需拡大戦略、なかでも雇用効果の高いサービス産業の育成を促進する政策の実施だ。
中国ではこれまで、景気対策といえば、景気をいかに浮揚させるかより、過熱景気をいかに沈静化させるかということの方が、当局を悩ませてきた難題だった。
今回、中央政府が四兆元の景気対策を打ち出してからわずか二週間のうちに、地方政府の表明した景気対策の規模がその四・五倍に達した。
そして、大規模な財政出動に踏み切ったと同時に、金融政策も一○年ぶりに緩和されたため、公共投資の刺激効果がより顕著に表れやすいはずだ。
従って、外需の悪化および設備投資の急減速を受け、当分、二桁成長時代の再来は期待しがたい。
ただし、迅速かつ大規模な景気対策の実施によって、二○○九年の前半あたりから、他の国や地域に比べていち早く回復し、二○○九年と二○一○年の経済成長率は八〜九%増に維持できると考えられる。
ただし、今回の金融危機が、投資と輸出に成長の牽引役を頼ってきた中国に警鐘を鳴らしたのは所得水準の改善に伴い、より便利、より健康な生活を求めるニーズが高まりつつあるなか、内外企業の参入と創意工夫を促進する規制緩和を行うだけで、新たな雇用の受け皿として、サービス産業の役割が相当期待できるはずだ。
筆者が取材したY(広州)は製造現場では一五○人しか雇用していないが、販売現場では、八○○人のヤクルトレディーを採用している。
また、北京にある日系スーパーマーケットは数千人の従業員を雇用している。
今後、金融、保険、ITのみでなく、小売や物流、レジャー、住宅関連など、大衆消費社会の到来に対応するサービス産業の育成に一層力を入れる必要がある。
いうまでもない。
今後、沿海部に比べて発展が著しく遅れている内陸部の振興を通じ、内需の足腰を強くするのは、中国にとって真剣に取り組むべき課題であろう。
この意味では、金融危機を契機に、「世界の工場」から再び内陸部に戻り始めた数千万人の出稼ぎ労働者たちが、内需拡大に向けた政府の背中を強く押す存在になるに違いない。
高い成長を続けてきた新興国は国内に豊富な投資機会、従って資金需要があり、地元の金融機関はサブプライム関連商品など、海外に収益機会を求める必要も余裕もなかった。
そのため、バランスシートの傷みとは無縁と認識されていた。
また、先進国経済が停滞に向かうことは広く認識きれていたが、二○○八年半ば頃までは、新興国の実体経済についての懸念は先進国の経済停滞の結果、どれだけ輸出が打撃を受けるかという点にほぼ絞られていた。
しかし、金融危機の深刻化に伴い、銀行のバランスシートの傷みが軽微であっても貸し渋りは生じ得ることが明らかになりつつある。
結果として、実体経済の収縮の焦点も、外需から内需に移行しつつある。
かつての新興国に対する楽観論を象徴するのが、二○○七年後半から二○○八年初めにかけて流行語になった「デカップリング」論であろう。
ひとことで言えば、アメリカを中心とした先進国経済の停滞は必至、しかし新興国の経済の堅調さは保たれ、その結果世界経済の落ち込みも軽微にとどまるという見通しである。
こうした楽観論が広く信じられてきた根拠は、ほかでもない近年の新興国経済の高成長という実績である。
もちろん、このこと自体は事実である。
例えば、世界に占める新興国の名目GDPのシェアは、ニ○○○年時点の二○・三%から二○○七年にはニ八・ニ%に拡大している(具体的にはヨーロッパ三カ国、アメリカ、カナダ、豪州、ニュージーランド、イスラエル、アジアNIES四ヵ国、日本の二二カ国・地域を除くすべての国・地域)。
特に、ニ○○四年以降は、新興国トータルの実質成長率が七%超に達すると同時に、先進国との比較における相対的な成長率の優位性が明確化した。
こうした実績が、デカップリング論に代表される新興国経済に対する楽観論の生みの親であった。
こうした楽観的な見方は現在も消えてはいない。
例えば二○○九〜は、「新興・途上諸国は短期的な循環では先進諸国経済とのカップリングが見られるが、長期トレンドとしてはデカップリングが見られる」として、新興国経済の相対的な成長優位の持続に期待を寄せている。
しかし新興国の潜在成長率の高さが必ずしも顕在化しなかったのが、二○○○年頃までの世界経済の経験であり、近年の新興国ブーム自体が異例であった可能性も排除されるべきではない。
長期トレンドのデカップリングが維持されるかには、デカップリングを引き起こしてきた要因の再点検が必要となろう。
今や明らかになりつつあるのは、新興国はよいときも悪いときもボラティリティが高いという、おなじみの経験則である。
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